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大阪地方裁判所堺支部 平成2年(わ)246号 判決 1990年10月05日

主文

被告人を懲役二年に処する。

未決勾留日数一〇〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、平成二年四月六日午後一一時ころ、大阪市中央区高津二丁目三番六号ホテル「アルデバラン」四〇七号室において、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約〇・〇四五グラムを水に溶かし自己の左腕に注射して使用したものである。

(証拠の目標)<省略>

(累犯前科)

被告人は(1) 昭和五六年一二月一七日大阪地方裁判所において覚せい剤取締法違反、窃盗、詐欺により懲役二年六月に処せられ、昭和六〇年四月一八日右刑の執行を受け終わり、(2) その後犯した窃盗、覚せい剤取締法違反により昭和六一年九月四日奈良地方裁判所葛城支部において懲役一年六月に処せられ、昭和六三年一月一三日右刑の執行を受け終わり、(3) その後犯した覚せい剤取締法違反により昭和六三年九月二六日大阪地方裁判所岸和田支部において、懲役一年八月に処せられ、平成二年四月五日右刑の執行を受け終わったものであって、右の事実は検察事務官作成の前科回答書、同電話聴取書及び右各判決の判決謄本によってこれを認める。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件採尿手続は違法であったと主張して、最高裁判所昭和五五年一〇月二三日決定を援用し、同決定によれば、被告人が犯行を否認していること、尿の任意提出を拒否していることを強制採尿が許される必要不可欠の条件としているものであると主張するが、同決定は要するに犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合であることを要求しているのであって、同決定の事実が被告人が犯行を否認しており、尿の任意提出を拒否していたので、それに他の事実を加えて犯罪の捜査上真にやむを得ない場合に当たると認められたものである。

そして本件のように、被告人が覚せい剤の影響により錯乱状態に陥っている場合は、被告人から尿の任意提出を期待できない点において、尿の任意提出を拒否している場合と同視すべきものであるし、また弁護人が代替手段として主張する着衣に付着した尿の検査は不純物が混入するおそれがあることから疑問視されており、またドレーパックにより被告人の睡眠中洩らした尿を採取したり、任意提出を促すため被告人の回復を待つのも、尿中の覚せい剤は日を経ることによって急速に排泄されるものであり、ことに本件では未だ注射時期も不明であったことも加えてその余裕がなかったと見られる。

そうすると本件医師の手による捜索差押令状を得た上の強制採尿は、適当な代替手段もなく、犯罪の捜査上真にやむを得なかったものと認められ、違法なものではない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条に該当するところ、前記の各前科があるので刑法五九条、五六条一項、五七条により四犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数一〇〇日を右刑に算入する。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木純雄)

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